There ain't no Red Rose without a Thorn(赤観小説)
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観月は嬉しい気持ちが昂ぶると体中に棘が生えてしまう 「薔薇肌」という体質持ちの特殊設定の赤観小説。 ネット掲載済みの同タイトルR18作品を 一部修正して全年齢にしました+書き下ろしを加えてます。 (まあ…全年齢といってもちょめちょめくらいはします笑) B6/112P/700円 2023年1月21日聖ルドルフwebオンリーにて発行
サンプル(冒頭7P)
*第一章 それは聖ルドルフ学院男子テニス部のある活動日のこと。二十名に満たないほどの部員が集合したその前方に三名の男が立たされていた。 当部は特殊な活動体系を取っており、日頃から学校のテニスコートで練習する部活組――いわゆる〝生え抜き組〟に加え、週二日はスクールで特別レッスンを受けるスクール組――通称〝補強組〟が存在する。今日は新たにその補強組となる新規メンバーの部活への初参加日であった。 まず自己紹介をしたのは、多動気味に小柄な体を揺らしながら話す眼鏡を掛けた男であった。次の人物は、一度会ったら忘れられないような特徴的な顔、髪型をしており、何より独特な語尾で喋った。 「以上だーね。よろしくお願いするだーね」 テニスコートにパラパラとまばらな拍手が鳴り響いた。そこからは部員たちが呆気に取られた様子がありありと感じられた。 一人くらいはまともであってくれ……新体制での新部長になる予定である赤澤𠮷朗は、願うような気持ちで最後の一人に目線を移した。端に立つその男は、拍手が鳴り止む頃に一歩前へ踏み出し、不敵に微笑んだ。 「初めまして、観月はじめです」 くせっ毛の髪をくるりと人差し指に巻き付け、弾くように払った。気取った態度だな、と感じた者は数名に留まらなかった。しかし観月は、人によっては隠そうとする――少なくとももう少し控えめに報告するであろう自身の身体的特徴について、毅然とした態度を貫いたまま発表した。 「予め皆さんにお伝えしなければならないことがあります。ボクは、薔薇肌の体質を持っています」 薔薇肌。それは世界でも例の少ない極稀な特異体質のことである。正式には「愉悦感情起因突発性皮膚硬性突起症」。通称で薔薇肌と呼ばれる。何千万人に一人の割合で発症し、遺伝との関連性も見つかっておらず現在は原因も特定されていない。愉悦や快楽によって感情が昂ぶった際に薔薇様の棘が皮膚に浮かぶことが唯一の症状である。鳥肌のようなものと考えれば想像しやすいかもしれないが、より硬くて鋭利な棘が全身の肌という肌を覆うのである。感情の強さに伴い、棘の大きさや数も変わってくる。その稀有な特質からテレビなどのメディアで取り上げられることが多々あり、実際の患者に出会ったことはなくともその存在は知っている者がほとんどであった。 「喜びを伴う興奮によって、ボクの体の表面には鋭利な棘が生えます。ボクから皆さんへ触れることのないよう極力気を付けますが、皆さんもボクには近付かないことをお勧めします」 観月は淡々と説明したが、部員の中では小さなどよめきが起きた。新メンバーも集い、これから一致団結して全国を目指そうというタイミングである。「なるべく近付かないように」と言われたことに赤澤も違和感を覚えていた。これから部をまとめ上げていく部長という自分の立場もあり、一歩前に踏み出して観月に声を掛けた。 「別に普段から棘が出っぱなしってわけじゃないんだろ? だったら……」 「感情がどのように動くか予測できない事態も時にはあるでしょう。不用意に触れない方が、危険が少ないんですよ」 観月は赤澤のフォローをたやすく突っぱねた。そして笑っているとは思えない目元のままで口の端だけを持ち上げた。 「テニスに関しては、ボクが求めるのは〝完璧〟です。敗北は許されません。勝つために必要なデータを集め、相手の弱点を探り、そこを突くために必要な技術を取得するのが信条です。敗北は許されないと言いましたが、これさえこなせればそもそも敗北などありえません。補強組という立場でこの場に呼ばれている以上、目指すのは完全なる勝利ただ一つです」 そこまで一息に述べると、顔の横の髪をくるりと人差し指に巻き取り満足げに笑った。笑ったといえど、やはりその目元に温かさはなかったが。 「以上です」 性格にも棘がある奴だな。赤澤の頭にはそんな言葉が浮かんだが、流石に口には出せなかった。 せめて一人くらいまともであれと願った補強組の新メンバーは最後の一人まで個性派揃い……どころか最後の一人が最も変わり者であった。今後部を引っ張っていく存在として、期待と責任感に加えて不安が押し寄せたような気がする赤澤であった。 *第二章 「それじゃあ練習始めるぞ。十分ラリー」 大きく手を鳴らし、散っていく部員たちの背中を目で追いながら、ふぅ、とため息が出た。その無意識の行動を心配そうに見つめてくる視線に気付き、誤魔化すように言葉を発した。 「名前は聞いたことあったけど、本当に居るんだな」 「はい。初めて会いました」 視線の主、後輩の金田とそう話しながら赤澤はコーチと話をしている観月の姿を目で追った。 (薔薇肌……か) 薔薇、そして薔薇の棘が似合う。不謹慎ながらそんなことを思った。可憐な見た目をしながらどこか危険性も伴っている――それが赤澤の観月に対する第一印象であった。 (まあなんにせよ、まずは部に慣れてもらわねぇとな) 途中入部の形になる補強組が、一年時からずっと部に所属しているメンバーと馴染むには時間を要する。テニスは個人のスポーツではあるが、団体戦ではチームに対する帰属意識が大事であることはこれまで幾度と感じてきた。エリート意識が強い補強組が部活に馴染めるか、生え抜き組が補強組のことを部外者ではなく同じ部員として受け入れることができるか……それが、今年聖ルドルフがどこまで勝ち上がれるかを左右すると考えているのだ。 (柳沢は早速馴染んでやがるな。喋り方こそ妙だが良いムードメーカーになりそうだ。あっちは野村って言ったっけか。キョドってるけどあれは地なのか?) それぞれの動向を見渡し、最後に目に入ったのは。 (…………観月) 集団からわざと離れるように一人で佇んでいた。輪に入りたそうな素振りも見せずに。 (こういう奴が一人居るだけで、全体のバランスが崩れたりするんだよな……) あとで声を掛けよう、と決めた。テニス以外でも部員のフォローをするのもまた部長の務めだ。全体の様子を見ながら「交代!」と声を掛け、自らもコートに入った。観月もコートに入るのが見えた。 今日は体の調子が良い。そう感じた。しかしムラがあるようではダメだ。調子が良いこのときの感覚を体に覚えさせ、いつでも再現できるようでなければならない。まだアップの段階ではあるが、一球一球確認するようにストロークを放った。 「交代! 次のメンバー、コート入れ!」 指示出しをして自身はコートを抜け、全体を見渡した。やはり全体から離れた隅の方で一人、タオルを肌に押し当てるように丁寧に汗を拭く観月が目に入った。体の線が細いとは元々感じていたが、発言や所作に至るまでどことなく女性らしさを感じる存在だと赤澤は思った。 しかしそう思いながらその後も観察していたところ、印象に反して思いのほか力強いテニスをする。さすが地方から選出されてきただけのことはある。休憩に入りスクイズボトルに口を付ける観月に声を掛けた。 「おう観月」 「部長の赤澤くん、でしたか」 「調子良さそうじゃねぇか」 「普通ですよこのくらい」 素っ気なく返事をしながらスクイズボトルを元の位置に戻し、ラケットを掴むとその場を後にした。釣れないやつだな、とは感じたもののそれで引く赤澤ではない。早歩きで観月の後を追いそのままピタリと横に付けた。目線こそ合わないものの、避けられることはなかった。 「どうだ、うちの部は」 「環境に関しては申し分ありません。テニスコート、屋内のトレーニング設備、ミーティングルームに関しても実に素晴らしい。部員の実力に関してはまだ全員とお手合わせできていないのでなんとも言えませんが……第一印象としては『発展途上』といったところですかね」 「ほう」 そう言ってコート全体を見渡す観月の目つきは鋭かった。全員と手合わせ出来ていないという状況とは裏腹に、すっかりチームの状態を把握している。参謀としても期待できそうだ。赤澤の脳内には着々と今後のチーム情勢の理想図が描かれつつあった。 聖ルドルフ学院に入学してテニス部に入り、暫くして補強組の制度ができると聞いたときは正直納得がいかない思いであった。学校の部活を休んでスクールに通うことが、許されるどころか正式な制度として保証されることが。スポーツ特待生の枠組みで地方から呼び集められ、ようは学校の看板を持ち上げるために彼らは利用され、更に自分たちはそのダシにされる。そうとしか思えなかった。それでもテニスが好きだからと必死に練習に取り組み、早い段階からレギュラーを勝ち取った。しかし〝生え抜き組〟と〝補強組〟の溝を感じなくなる瞬間は一度も訪れなかった。大会に出て、勝っても負けても、同じ気持ちを分かち合えた気にはなれなかった。 自分が最上級生になって部長になったら、その垣根をなくす努力をする。ずっとそう考えてきた。まだ三年生の一部メンバーは部に顔を出しているが、実質の運営代は自分たちに移っており赤澤はその新部長であった。自分たちの代では万年都大会予選落ちから抜け出し、関東大会へコマを進める。その思いは強くなっていた。 今年は特にスカウトに力を入れたと聞いた。そしてコイツはきっと、新チームの中核となる人物だ。観月の存在に対して未来への手応えを感じている赤澤であった。性格的には妙なやつだが、テニスの腕は申し分ない。何より頭が良い。 「お前、データがどうこうとか自己紹介のときに言ってたよな」 「ええ。テニスに限らずですが、相手の得意不得意を事前に調べておくのは戦いの基本です」 「期待してるぜ」 その言葉と共に向けられた笑顔を観月はさらりと交わした。 「ボクは充実した環境でテニスさえ出来ればいいんです」 そう一言残してくるりと方向転換をした。馴れ合いは無用とでも言いたいかのように。あからさまに避けるような動きを取られ、さすがに赤澤は追いかけることをしなかった。
サンプル(加筆分1P)
*エピローグ ――十二月、ドイツフランクフルト空港。 初めてきたときはまるで見慣れなかった、長く続くローマ字の羅列が記された看板が並ぶそこ。心機一転降り立ったそのときとは全く異なる心情でその場所に来ることになった。飛行機の到着予定時刻まで三十分。出国処理やバゲージのピックアップも含めたらあと一時間程度であろうか。 到着口ゲート付近、暫く居着くに丁度良いスペースを見つけて身を落ち着ける。空港内は充分に暖房が効いて温かく、寧ろ暑いほど。しかし最近では外を出歩く際はフードを被っていることが常で、更には昔を思い出すのか、なんだかその状態が落ち着くと気付いてしまったため、そのままフードを被り続けた。 どんな顔で、どんな気の持ちようで出迎えればいいのか。何日も……いや、それよりもずっと前から心積もりをして、それこそシナリオまで描いたはずなのに、いざ直前になると想像通りに振る舞えそうにないと気付いてしまった。今の心情で改めてシナリオを描こうとした。なかなかうまくはいかなかったが。 考えて、時計を見て、ため息を吐いて。その一連の流れを何度繰り返したことだろう。電光掲示板は飛行機が予定時刻から少し遅れて到着したことを告げた。 だとすると今から三十分程度か、と計算していたにも関わらず、想像よりもはるかに早く、開いたゲートに懐かしい者の姿を捉えた。